

磨けない塗装を前にして
メルセデス・ベンツ CLSクラスは、クーペの流麗なシルエットにセダンの実用性を重ねた4ドアクーペである。ルーフからトランクへ流れるラインの美しさは、光沢でもマットでも変わらない。ただしマットPPFの扱いは、光沢塗装とは根本から異なる。 光沢塗装なら、くすみや微細な傷は磨いて均せる。マット塗装は表面の微細な凹凸で光を拡散させ、あの落ち着いた表情をつくっている。磨けば凹凸が潰れ、そこだけ艶が出る。つまり下地作業の一手が、そのまま取り返しのつかない質感の差になる。 この車両の初年度登録は2019年。年式に見合わない美観を取り戻すべく繊細な作業が求められた。やるべきは、塗装本来の風合いを一点も損なわずに保護層を載せることである。
ガラスは攻め、塗装は守る
今回の施工は、リアガラスのウロコ除去とマットセラミックコーティングの二本立てである。性格の違う二つの作業を、同じ一台の上で切り分ける必要があった。- リアガラス:水垢が固着した鱗を除去し、視界を回復させる
- ボディ:磨きを入れず、FEYNLABのマットセラミックで保護する

均一に塗り、均一に拭き上げる
難所の核心は、コーティングの塗布から拭き上げまでを均一に通すことにある。光沢面なら多少のムラは後から整えられるが、マット面では塗り重ねの境目や拭き残しが、そのまま質感の濃淡として残る。 そこで一パネルごとに塗り込みの範囲と手数を揃え、拭き上げの方向と圧も統一した。ボディが大きく曲面の多いCLSでは、ルーフからリアへ続く面の連なりを途切れさせないことが要になる。パネルの境目で表情が変わらないよう、全体を一つの面として仕上げる意識で進めた。 使用したFEYNLABのマットセラミックは、マット特有の質感を活かしたまま塗装面を外的要因から保護する。艶を足さず、落ち着いた表情を維持する。それこそがこの塗装に求められる仕上がりである。 仕上がったCLS220dスポーツエクスクルーシブパッケージは、イリジウムシルバー本来の穏やかな表情を保ったまま、鮮明さを取り戻したリアガラスとともに納車を迎える。磨かないという判断が、この車の上品さを守った。

