

「変えない」クルマだからこそ、変える価値がある
ハイエースというクルマは、長年にわたり基本構造を大きく変えずに作り続けられてきた。荷室の寸法も骨格も維持され続けているのは、働く現場やユーザーの経済的合理性を裏切らないためだ。だからこそ、このクルマを選ぶという行為自体が、すでに一つの意思表示になる。今回のオーナー様も、そうした「変わらない相棒」に自分だけの色をまとわせたいという思いで来庫された。エンブレムやアウターハンドルといった小さなパーツの塗装が、車両全体の印象を静かに変えていく。
メッキという壁と向き合う
今回手がけたのは、エンブレム、アウターハンドル、ドアミラーカバー、リヤガーニッシュ、フロントグリルのマットブラック塗装である。いずれも脱着を伴う本格的な作業で、単なる上塗りでは終わらない。素材がメッキであったことが最大の難所となった。メッキは塗料をはじきやすく、密着不良を起こしやすい素材として知られている。そこでガスプライマーと専用プライマーを併用し、下地の段階から時間をかけて食いつきを高めていった。見えない工程にこそ、仕上がりの寿命が宿る。 作業はパーツごとに脱着を行いながら進められた。- エンブレム塗装
- アウターハンドル塗装・脱着
- ドアミラーカバー塗装・ドアミラー脱着
- リヤガーニッシュ塗装・脱着
- フロントグリル塗装・脱着

手を戻すところまでが仕事である
アウターハンドルは日々ユーザー様の手が触れる部分であり、塗装だけで終わらせるわけにはいかない。作業ではハンドル内部のグリス部分を一度取り除き、仕上げ後にグリスアップを施してからお渡しする工程を挟んだ。見た目の変化を求めた塗装であっても、可動部の滑らかさという実用性を犠牲にはしない。この配慮こそが、ハイエースを長く乗り続けるオーナー様の暮らしを支える仕事だと考えている。マットブラックに沈んだ表情は精悍でありながら、開閉の感触はこれまでと変わらない。ハイエースという道具の本質を守りながら、所有する喜びを静かに積み増した一台である。



