

車体という「逃げ場」を持たない部品の塗装
今回の依頼は、メルセデスAMG GLC 43に付くエンブレムの取り外し品を、艶消しの黒に塗り替えるものだ。車両ごとの入庫が多いFOURSIDEだが、部品の単品預かりにも柔軟に応じている。この単品エンブレムは、その姿勢を示す一件となった。 単品作業の難しさは、車体という基準色がないことにある。ボディに付いた状態なら、周囲のパネルが反射の流れや色の見え方を教えてくれる。手元の部品にはそれがない。組み付け後の外装色とのバランスを、すべて部品そのものから読み取る必要がある。
細部まで詰めるという判断の積み重ね
エンブレムは小さいが、人の目は最も近い距離で見る。だからこそ、細部に渡って細かく高品質に仕上げることを方針とした。判断の中心は、マットブラックという色の性質にある。- 艶消しは誤魔化しが利かない。光沢仕上げなら研ぎと磨きで修正できるが、艶を消した面は塗った状態がそのまま表情になる
- 文字や縁の立ち上がりを潰さない。塗膜が厚くなればエンブレム本来のシャープな輪郭が鈍る。塗り重ねる量を見極める工程が要る
- 面ごとに艶感を揃える。平面と曲面で光の反射が異なるため、同じ黒でも均一に見えるよう塗り方を調整する

大人のスポーツSUVに黒を重ねる意味
GLC 43は、63シリーズのようなサーキットを見据えた極限性能ではなく、日常の快適さとAMGらしい刺激を両立させた一台だ。縦格子のグリルや四本出しのエグゾーストで、品格を保ちながら主張する。派手さを避ける性格のクルマである。 マットブラックのエンブレムは、この性格と相性がよい。メッキの輝きを抑えることで、顔つきは引き締まりつつ静かになる。声高に主張せず、近づいた人にだけ違いが伝わる。大人のスポーツSUVという立ち位置に、黒の艶消しは筋が通っている。 小さな単品エンブレムの塗装は、規模こそ控えめでも、仕上げの精度がそのままクルマの表情に直結する。取り付けられた後、その黒が車体に溶け込み、離れて見ても近くで見ても違和感がなければ、仕事は成功といえる。


