

傷が似合う車を、なぜ直すのか
ディフェンダーの源流は1948年にさかのぼる。道を選ばない本格オフローダーとして生まれた道具であり、泥も擦り傷も勲章になり得る車だ。ほかの高級車にはない、この独特の寛容さこそが魅力の一端である。 だが現行のディフェンダー110は、アルミニウム製モノコックを核に、エアサスペンションと電子制御を備えた現代の高級車でもある。ホイールベース約3,020mm、全幅約2m、全高約1.97m。直線を基調としたスクエアな造形は、パネルの段差や隙間が整っていてこそ成立する。 今回の車両はLE72WAB、D300のエアサスペンション仕様である。3.0L直列6気筒ディーゼルが生む650Nmの大トルクで、重量級のボディを悠々と動かす。持ち主が負った左リアコーナーの傷は、道具としての勲章というより、造形の整いを乱す傷であった。どこまでをタフさとして受け入れ、どこから直すか。その線引きに応える仕事が、整備の側にある。
見た目の無骨さと、裏側の繊細さ
左リアのコーナーパネルカバーは、リアの縦型テールランプに隣接する、ディフェンダーらしさの要所だ。外観は頑丈そうに見えるが、パネル裏には複数の固定爪とガイドが配置されている。無理に引けば爪は折れ、変形が残る。まず構造を読み解くことが、分解の第一歩になる。- 分解:ランプ本体だけでなく、周辺カバーとの重なりと固定位置を確認しながら外す
- 部品管理:形状の異なるクリップやブラケットを、取り外した位置ごとに管理する
- 配線保護:灯火類の配線を引っ張らず、挟み込まないよう慎重に扱う

サントリーニブラックを、純正の景色へ戻す
この車のカラーコードは1AG、サントリーニブラックである。黒は最も正直な色だ。光の反射が研磨傷や肌の乱れを容赦なく拾うため、下地の完成度がそのまま仕上がりに現れる。加えてメタリックの粒子が均一に並ばなければ、黒の深さは生まれない。 ベースコートは、塗装距離、ガンの動かし方、塗り重ねの回数を一定に保つ。凹凸や奥まった部分ではガンの角度が変わり、塗料の乗り方に差が出やすい。塗り残しやムラが出ないよう、角度を意識して塗り込む。クリアは平面だけでなく曲面やエッジまで艶と肌を揃え、周辺パーツと質感を合わせて仕上げる。 最後の組み付けも気を抜けない。塗装後のパネルは、爪やクリップを通す際の接触傷に弱い。周辺を保護しながら固定部を一つずつ復元する。爪の掛かりが甘ければ、走行中の振動でパネルが浮く。スクエアなデザインゆえ、左右の隙間と段差は目立つ。テールランプとの収まりを確かめ、レンズやシール部に塗料が付着していないかも点検する。 傷を愛せる車だからこそ、直すと決めた箇所は、直した痕跡を消す。それがディフェンダーの価値を守る、私たちの流儀である。




