四本ドアの王が背負ってきた系譜の先に、この2021年式マセラテイ クアトロポルテは静かに立っている。深紅の内装が、その血統の温度を物語る。

マセラテイ クアトロポルテ とは
血統という言葉を軽々しく使いたくないが、マセラテイ クアトロポルテほどこの言葉が似合う車も少ない。1963年、初代が世に出た時点で「四枚ドアのスポーツカー」という矛盾した概念を体現していた。フェラーリのV8を積んだセダンなど、当時どこにもなかった。以来60年、代替わりのたびにこの矛盾を引き継いできた。今回の個体は6代目、2013年から続く現行世代の後期型にあたる。長い家系図の中では、成熟しきった最終章に位置する存在だ。走行距離15,000kmという数字が、その完成度をあまり乗らずに保存してきたことを示している。
ボルドーという選択が語るもの
外装はホワイトパール、内装はワインレッドという組み合わせを見て、多くの人は驚くだろう。だがこの色使いは、イタリア車が長く守ってきた「内装で遊ぶ」文化の延長線上にある。ダッシュボードの曲線は先代から大きく変わっていないが、ステッチの色、シートの張り方には確実に現代の空気が入っている。トリデンテのエンブレムが光る三叉槍のマークは、ボローニャの噴水像に由来するという逸話もある。派手ではなく、むしろ落ち着いた主張だ。内装色一つで、この個体がただの移動手段ではないことが分かる。
エンジンという名の遺伝子
この世代のクアトロポルテには複数のエンジンバリエーションが存在したが、どのグレードを選んでもフェラーリのマラネロ工場が関わったV6・V8が心臓部に収まっていた時期がある。マセラティとフェラーリは、かつて同じフィアット傘下で技術を分け合っていた間柄だ。つまりこの車の血には、レーシングブランドの技術が確実に流れ込んでいる。実際に火を入れると、アイドリングの音色だけで只者ではないと分かる。乗用セダンとして設計されながら、心臓だけはサーキット出身という不思議な二重性を持つ車なのである。
家系図の中の後期型という立ち位置
2021年式という年式は、この世代の中でも熟成が進んだ後期にあたる。初期型で指摘されていた内装の質感や電子装備の甘さは、年を追うごとに改善されてきた。つまりこの個体は、6代目クアトロポルテが最も完成された姿を見せていた時期の一台だ。新しいモデルへの過渡期というより、既存の設計を磨き上げた到達点と呼んだ方が正確だろう。走行距離15,000kmという数字も、後期型の熟成度を新品同様の状態で味わえることを裏付けている。旧世代でも次世代でもない、この一瞬にしか存在しない立ち位置がここにある。
四枚ドアという反逆
セダンにスポーツカーの魂を積むという発想は、今でこそ珍しくないが、マセラティが最初にそれをやった1963年当時は業界への反逆だった。後にポルシェやアストンマーティンが四枚ドアのGTを作るようになったが、その源流を辿ればこの系譜に行き着くという意見は少なくない。今回の個体もその反逆精神を静かに継承している。街中を走らせても、後部座席に人を乗せても、アクセルを踏み込めば本性が顔を出す。実用と昂ぶりを同時に成立させる設計思想は、60年経った今も色褪せていない。
京都という舞台で乗るということ
この車を京都で扱う意味を考えると面白い発見がある。石畳や狭い路地が残る街で、全長5.3mを超えるセダンを走らせるのは決して簡単ではない。だが逆に言えば、この街でストレスなく扱える一台なら、日本中どこへ行っても不自由しないという証明にもなる。8,990,000円という価格は、新車のクアトロポルテを考えれば決して高くはない水準だ。血統と歴史を纏った一台を、まだ十分に若い状態で手にできる機会は、そう長くは続かないだろう。この個体を選ぶことは、系譜の続きに自分を書き加えることに近い。
マセラテイ クアトロポルテ スペック・仕様
| メーカー | マセラティ |
|---|---|
| グレード | クアトロポルテ |
| 年式 | 2021 |
| 走行距離 | 15,000 km |
| 外装色 | ホワイトパール |
| 内装色 | 赤 |
| ハンドル | 右 |
| 排気量 | 2,970 cc |
| 燃料 | ガソリン |
| 車検 | 2026年12月 |
| 修復歴 | なし |