四季を問わず走れる一台が背負う宿命
アウディが掲げる「誰でも速く、安全に走れる」という哲学は、オープンカーという不安定さと本来相性が悪い。だがS5カブリオレは、クワトロと幌の組み合わせによってその矛盾を解いた。幌を閉じれば上質なクーペ、開ければ優雅なオープンカーへと変わる二面性こそが、この車を選ぶ理由である。 しかし理性で選ばれる車であるほど、経年による外装の劣化は所有者の満足度を静かに削っていく。ヘッドライトの黄ばみやバンパー樹脂の色褪せは、性能とは無関係に見えて、実は「知的なスポーツカー」という佇まいを支える重要な要素だ。今回の入庫は、その佇まいを取り戻すための整備である。
脱着・分解から始める塗装という選択
今回はフロントバンパーとヘッドライトを脱着・分解し、ヘッドライトは磨きとクリア層の再形成を行った。表面的な処理では届かない奥行きまで手を入れることで、経年劣化を根本から断つ狙いがある。 塗装はフロントエンブレムとサイドエンブレム、サイドシルバー部にキャンディブラックを、フロントバンパー樹脂部・グリル・フロントバンパーシルバー部・リヤバンパーシルバー部にはサテンブラックの半艶を採用した。艶の質を塗り分けることで、単色に見えがちな黒に奥行きと立体感を持たせている。- フロントバンパー&ヘッドライト脱着・分解、ヘッドライト磨き&クリア
- フロントエンブレム・サイドエンブレム塗装(キャンディブラック)
- フロントバンパー樹脂部・グリル・シルバー部塗装(サテンブラック半艶)
- サイドシルバー部脱着・塗装、リヤバンパー脱着・シルバー部塗装
持込グリルが突きつけた角度の壁
今回はお客さま持込の社外グリルを取り付ける工程で、想定を超える難所に直面した。フロントカメラの取付角度が純正品と大きく異なり、そのままでは正しい視界を確保できない構造だったのである。 パーツの一部を切除し、固定位置を何度も検証しながら収まりを追い込む作業を重ねた。既製品の組み合わせでは解決できない工程こそ、経験と手数がものを言う領域である。S5カブリオレという車体の個性に、社外パーツを違和感なく融合させることができた。 「走る」「魅せる」「くつろぐ」を高次元で成立させたこの車は、外装の一つひとつが所有満足度に直結する。持込パーツであっても収まりよく仕上げる技術は、単なる作業ではなく、その所有体験を守るための整備だと考えている。

