

二色の境界線をどう引くか
今回手がけたのはタイカンの左右リアホイール修理で、シルバーとグロスブラックを組み合わせた二色仕様である。単色の補修とは勝手が違い、塗る順番と下地処理の範囲をどう設計するかで仕上がりの精度がまるで変わってくる。 面積の広いホイールだけに、先に塗った色の境界を守りながら次の色に進む工程は神経を使う。マスキングの一線が甘ければ、光にかざした瞬間に色の滲みとして露呈してしまう。タイカンの足元は、それだけ嘘のつけない場所だ。 だからこそ、下地の粗さひとつ、塗料の粒度ひとつにも妥協はない。シルバーの面が鏡のように光を返し、グロスブラックの黒がその光を吸い込むように締める。二色の対比が際立つのは、境界を丁寧に扱った結果である。
外したついでに見えてきたもの
ホイールを外す作業は、普段は目に入らない部分と向き合う機会でもある。今回はキャリパーの白が視界に入り、そのまま清掃してから組み直した。タイカンのブレーキキャリパーは白という潔い色だけに、汚れが目立ちやすい。 ホイールの奥に隠れていた汚れを落としてから戻すと、装着後の見え方がまるで違う。スポークの隙間から覗く白が澄んでいるだけで、車体全体の緊張感が一段引き締まる。手をかけた場所は、走り出す前から静かに主張してくる。
EVらしい静けさが仕上がりを裏切らない
タイカンはポルシェ初のフルEVでありながら、伝統的なスポーツカーの躍動感を失わない一台だ。エンジン音という装飾がない分、足元の質感がそのまま印象に直結する。ホイールの光沢や色の切れ味が、走行音に代わって語り出す部分がある。 静かに滑り出す車内から見下ろすリアホイールが、シルバーとグロスブラックの境目まで整っている。それはタイカンというクルマが持つ「静けさの中の説得力」に、塗装の仕事が一枚噛んでいる証拠でもある。 今回はお得意様ということもあり、通常より踏み込んだ値引きにも応じた。価格だけでなく、手元に戻ってきたタイカンの艶と静けさで納得していただけたなら、それに勝る評価はない。