

黒塗装が抱える宿命と向き合う
CLS 53を見て、まず印象に残るのは伸びやかなクーペフォルムである。ラグジュアリーセダンの快適性とスポーティさを兼ね備えたこの一台は、黒という色を選んだ時点で相応の覚悟を求められる。オブシディアンブラックは傷や磨きムラが最も目立つ色調のひとつで、洗車傷ひとつが昼光の下で顔を出す。同じ黒を選んだオーナーに伝えたいのは、色そのものが持つ厳しさを知った上で付き合う姿勢だということである。 今回の個体は初年度登録2019年、年式なりの使用感を纏っていた。塗装状態を見極めながら各パネルの映り込みを確認し、研磨作業を進めるという地道な工程を踏んだ。ムラを残したまま仕上げても、黒は必ずそれを暴く。だからこそ焦らず段階を踏む判断が要る。
足回りと消耗部品、見落とされがちな要点
コーティングという華やかな工程の裏で、地味だが欠かせない作業も並行して行った。左フロントタイヤにはコブ状の膨らみが確認され、即座に交換を判断している。タイヤのコブは内部コードの損傷を示すサインであり、放置すれば走行中のバーストリスク につながる。黒塗装の美しさに目を奪われがちだが、足元の点検を怠らない姿勢こそ長く乗り続けるための基本である。 あわせてオイルにはFUCHS GT1 FLEX3 5W-40を採用し、ガスケットとオイルフィルターも刷新した。ワイパーラバー、エアコンフィルター、バッテリーといった消耗品も一括で見直している。キャリパーは分解のうえペイントを施し、足回りの表情まで整えた。CLS 53のようなハイパワー車こそ、こうした基礎整備の積み重ねが走りの信頼性を支える。
セラミックV3が引き出す立体感
仕上げに選んだのはセラミックV3である。ブラックメタリック特有の深みと透明感を引き出すことを目的に、丁寧な研磨を経てから塗布した。塗り重ねただけでは艶は出ない。下地の傷を消し込む工程があってこそ、コーティングは本来の性能を発揮する。同じ黒のオーナーには、施工前の下地処理にこそ時間をかける業者を選んでほしいと伝えたい。 結果として、ボディラインがより立体的に映り込む艶感と高い防汚性能を両立する仕上がりとなった。CLS 53の存在感あるフロントフェイスは、艶を得たことでいっそう鋭さを増している。黒という色を持て余さず、むしろ武器に変える。それがこの一台を通じて見えてきた答えである。