

F3世代という、見た目以上の重み
このアウディ Q3スポーツバックは2021年式、F3と呼ばれる2代目モデルである。全幅1,840mm、ホイールベース2,680mmという数値は、先代8Uからの進化を物語る。2.0L TDIディーゼルとクアトロの組み合わせで150ps・340Nmを発生させる個体は、街乗りの取り回しと高速域での安定感を両立させるために設計された、いわば「凝縮されたAudiのSUV技術」の持ち主だ。そんな車だからこそ、ボディの一枚一枚にも妥協のない精度が宿っている。 左リヤドアに生じた損傷は、このボディが持つ立体的な面構成の中で起きたものだ。フェンダーの張り出しからドア、サイドシルへと続くプレスラインは、単なる装飾ではなく、このアウディの美学であり個性そのものである。だからこそ、傷を直すという行為は、その個性を壊さずに戻すという、思いのほか繊細な作業になる。
鉄板を「戻す」という選択
作業で最も難しかったのは、プレスラインを元通りに戻すことだった。アウディ車のプレスラインは丸みを持たず、鋭く尖った造形が特徴で、他の輸入車や国産車とは一線を画す。今回はパテで形を作るのではなく、板金処理によって鉄板そのものを可能な限り戻す方針を貫いた。損傷箇所だけでなく、ドアの建て付けやリアフェンダーとの隙間、面差しにまで波及がないかを丁寧に確認したうえで、作業に入っている。- ドアの上下位置・前後位置の歪みの有無を確認
- フロントドア・リアフェンダーとの隙間と面差しのチェック
- 板金による鉄板形状の復元を優先

修理したと気付かれない、という基準
板金塗装は傷を消す仕事だと思われがちだが、それだけでは本当の意味での修理にはならない。鉄板をどこまで元の形に戻せるか、隣のパネルとどこまで色を合わせられるか。最後にはボディに映る光や景色の歪みまで確認し、プレスラインの仕上がりを見極める。このQ3の左リヤドアも、そうした工程を経て、ようやく一枚のパネルとしての存在を取り戻した。 板金処理という形で手がけた今回の左リヤドア修理だが、作業の密度を落とすことはなかった。目立つ傷を消すことは出発点に過ぎず、私たちが目指すのは「修理したことに気付かれない仕上がり」である。そこに辿り着いて初めて、一台の車の歴史に静かに向き合えたと言えるのだろう。















