ハコスカと呼ばれた日産 スカイライン三代目が、上賀茂の工場で見せたのは思いのほか静かな傷だった。トランクフロアに開いた錆穴の奥に、半世紀分の水が眠っていた。
バックパネルの奥で進んでいた腐食
依頼を受けたのはリアパネルの修理である。ハコスカのリアまわりを見た瞬間、表面の錆以上に厄介な予感がした。実際にパネルを剥がすと、トランク内部とバックパネルの内側にまで腐食が広がっていた。ボクシーな車体の裏側で、見えない部分から着実に進行していたのである。
厄介なのは、腐食の深さが外から判断できない点だった。塗装を剥離し、鉄板の状態を一枚ずつ確認しながら、どこまでが再生可能でどこからが交換対象かを見極めていく。ハコスカの車体は当時の鋼板そのままであり、判断を誤れば強度を損なう。ここは経験と勘だけでなく、指先で鉄板を押す感触が頼りだった。
水が抜けていなかったという事実
作業を進めるうちに分かったのは、錆穴からトランクフロア内へかなりの水が浸入していたことだった。長年にわたり水分が滞留し、それが腐食を静かに加速させていた。まずは徹底した除水と乾燥から始めるほかなく、ここを飛ばして塗装に進めば同じ症状がすぐに再発する。地味だが避けられない工程だった。
乾燥後には別箇所の腐食防止を目的に注油作業も行った。スカイラインのような旧い車体は、一箇所の修理で満足せず、隣接する部位にまで気を配る必要がある。錆転換剤とエポキシプライマーによる防錆処理を丁寧に重ね、再発防止の土台を作った。ここまでやって初めて、次の塗装工程に進む資格が生まれる。
リアバンパー脱着から仕上げまでの一連
並行してリアバンパーの脱着も行った。パネル単体の修理では済まないのがハコスカの構造で、周辺部品を一度外し、全体のバランスを確認しながら組み直す必要がある。作業は次の工程で構成された。
- 腐食部分の特定と切除、鉄板の状態確認
- 錆転換剤とエポキシプライマーによる防錆処理
- 除水・乾燥・注油による再発防止措置
- リアバンパー脱着と塗装代一式による仕上げ
スカイラインという一台に向き合う以上、見えない部分にこそ手間を惜しまない。その積み重ねが、次にこの車が走り出す道のりを静かに支えている。