

コンパクトの中に宿る、譲れない矜持
Bクラスというモデルは、メルセデス・ベンツの理念「Das Beste oder nichts(最善か無か)」を、最もコンパクトな車体で体現する存在である。派手さよりも面の美しさで魅せる「Sensual Purity」の思想が、フロントマスクの一枚一枚のパネルに息づいている。 今回入庫したBクラスの前オーナーは、この車を日常の足として大切に扱ってきたであろうことが、車体全体の状態から見て取れた。それでもフロントバンパーには、駐車場や街中でのわずかな接触の痕が残されていた。スタイリッシュでパーソナルな性格を持つBクラスだからこそ、その傷は看過できないものだった。 コンパクトカーであっても安全性能に妥協しないというメーカーの姿勢は、外装の作り込みにも表れている。だからこそ、この一台のフロントバンパーを元の姿へ戻す作業には、相応の緊張感が伴った。
ジュピターレッドという難関
今回の塗装色は、カラーコード589のジュピターレッドである。ソリッドの赤はメタリックやパールと違い、光の反射で誤魔化しがきかない。隠蔽力が弱く、下地が透けやすいうえに調色も難しい、塗装職人にとって気の抜けない色だ。 フロントバンパー部分修理という言葉だけを聞けば単純な作業に思えるかもしれない。だが実際には、色の再現という一点だけでも高度な経験と勘が要求される。Bクラスの塗色を寸分違わず蘇らせるために、調色の工程には通常以上の時間を割いた。- フロントバンパーの脱着・分解・組立
- 損傷部分の修理塗装
- ジュピターレッド(589)の精密な調色

見えない裏側にこそ、品質は宿る
FOURSIDEでは、フロントバンパーを脱着した際、外れたパーツの裏側まで丁寧に洗浄することを標準工程としている。誰の目にも触れない部分だが、そこに汚れや異物が残っていれば、組み付け時に思わぬ傷を生む原因になる。 この地道な下処理があるからこそ、完成後の面の美しさが際立つ。Bクラスが持つ滑らかな曲面美は、見える部分だけを整えても再現できない。裏側の清浄さこそが、表側の仕上がりを静かに支えている。 作業を終えたBクラスは、傷の記憶を残さぬまま、再び上賀茂の光の中へ走り出していった。小さな一台の修復に注いだ手間は、次の走行距離には現れないが、確かにこの車の未来を支えている。










