

ナンバープレートという分岐点
作業に入る前、まず向き合ったのはリアゲートの構造そのものだった。ナンバープレートを脱着するかどうかで、修理の設計図は大きく変わる。脱着すれば作業範囲は広がり、その分だけ塗装のやり直しも増える。レンジローバーのフラッシュグレージングを崩さぬよう、脱着せずに済む部分補修の道を選んだ判断が、この修理の骨格を決めた。 引き算のデザインを標榜する車体は、面の途切れに厳しい。パネル一枚で完結する補修だからこそ、隣接する塗膜との境界線をどこに置くかが、仕上がりの品格を左右することになる。
調色とクリアの切れ目に賭ける
小範囲の補修は、広範囲の全塗装よりもかえって神経を使う。色をわずかに外せば、隣の未補修面との差がむしろ際立ってしまうからだ。調色は光の当たる角度を変えながら何度も確認し、クリア層の切れ目についても、段差が指の腹に触れないところまで研ぎ込んだ。レンジローバーの塗装は光沢そのものが素材の質感を語る部分であり、そこに継ぎ目を残すことは許されない。
隣のパネルまで磨き上げる理由
補修範囲は最小限に留めたが、仕上げの段階で下側のパネルを一枚、あわせて磨き作業に回した。修理箇所だけを完璧にしても、隣り合う面との艶の差があれば、全体の印象は損なわれる。オートバイオグラフィーの名にふさわしい佇まいは、目立つ場所よりもむしろ視線の抜けるところで決まると考えたためだ。 仕上がったリアゲートを陽の下で見ると、傷があった痕跡はどこにも見当たらない。レンジローバーが持つ「タキシードを着たまま泥に入る」という二面性は、こうした見えない一枚の磨きによって静かに支えられている。





