

光沢が似合わなかった理由
CLAクラスは、センシュアル・ピュリティという設計思想のもとに生まれている。不要な線を削ぎ落とし、艶やかな流線形でCd値0.21という空力性能を実現した車体は、本来なら磨き上げた光沢こそがふさわしいはずだ。しかし今回のオーナーは、その常識に静かに背を向けた。純正ホイールの輝きが、この車の「もう一つの顔」を隠していると感じたのかもしれない。 AMGシリーズの中でも至高の座を意味する「S」を冠したこの個体は、0-100km/h加速2.7秒という異次元の性能を秘めながら、日常では都会的な4ドアクーペとして振る舞ってきた。エレガンスと狂気の二面性こそがCLA45 Sの正体である。艶消しという選択は、その狂気に近い側面を、静かに、しかし確実に前面へ押し出す作業だったといえる。
マット塗装という緊張感
ホイールカスタムペイントによるマットブラック仕上げは、口で言うほど単純な作業ではない。マット塗装は光沢塗装と違い、表面の傷や塗装ゴミの噛み込みをごまかせない。わずかな見落としがあれば、そこだけ質感が変わり、塗り直しを余儀なくされる。作業チームは細心の注意を払いながら、一発勝負に近い緊張感の中で筆を進めた。仕上げにはホイールマットセラミックコーティングを施し、艶消しの質感を長く保つ処置も加えている。 作業中、ホイールを脱着した際にレッドキャリパーの傷に気づいたことも、今回の現場の記録として残しておきたい。細部を洗浄し、丁寧にタッチアップを行った上で組み直している。マットブラックのホイールが際立つ背景には、こうした見えない部分への手当てが静かに効いている。
上賀茂から送り出す一台として
CLA 45 Sは、英国YASA社製アキシャルフラックスモーターを積む最新世代においても、13本のマイクで再現した擬似エンジンサウンドや模擬ギアシフトを持ち、五感に訴える熱量を手放していない。その情熱的な性格に、艶を消したホイールとタッチアップされたレッドキャリパーの対比はよく似合う。 今回語るべきは、マット塗装特有の難しさに向き合った工程と、傷を見逃さず手を入れた姿勢だろう。メルセデス AMG CLA 45 Sクラスは、艶を消したことで、かえってその素性を隠さない一台へと仕上がった。



