車検の延長線上に、もうひとつの課題が立ちはだかることがある。今回のハイエースは、車検整備と同時に福祉車両への構造変更という、前例のない工程を求められた一台である。

介護車という未知の領域
依頼を受けた時点で、当店に福祉車両専門の蓄積があったわけではない。ハイエースの車検整備自体は手慣れた作業だが、車椅子を安全に固定するための架装は一から組み立てる必要があった。参考にできる社内マニュアルもなく、必要な部材の選定から始めるしかなかったのが正直なところである。 同じように「車検のついでに介護仕様にしたい」と考えるオーナーは少なくないはずだ。だが実際には、車検整備と構造変更は別の知識体系である。ハイエースのような汎用性の高い車両ほど、標準の整備知識だけでは足りない部分が必ず出てくる。
固定という一点にかけた時間
最も神経を使ったのは車椅子の固定方法だった。走行中の振動や制動時の慣性に耐える強度を持たせつつ、乗り降りのたびに脱着する実用性も両立させなければならない。福祉車両構造変更の申請要件を満たす固定金具の位置や角度は、図面を引いては現物合わせを繰り返す地道な作業になった。 並行してハイエース本体の下廻り洗浄と防錆塗装、シャシーブラックの再施工も行っている。福祉用途で長く乗り続ける前提であれば、足回りの防錆はむしろ通常以上に重要になる。ブレーキオイルの交換も部品代を含めて実施し、制動性能の面でも不安を残さない状態に整えた。
次にハイエースを架装する誰かのために
キーバッテリーの交換やマイナーパーツの整備、保安基準検査といった車検まわりの積み重ねは、地味だが構造変更の土台を支える工程である。用品取付も含め、一台の中に通常の車検整備と特殊架装の両方が同居する仕上がりとなった。 今回の経験で得た知見は、社内に記録として残すことにした。同じ状況で悩むハイエースオーナーがいれば、固定方法の選定や申請の勘所について、初めてでも工程を可視化できる体制を次はより早く提供できるはずである。